労働基準法 (労働者の働く条件の最低基準を定める)
◇ 労働基準法(労基法)とは? ◇
労働基準法とは、労働者が働く条件について、その最低基準を定めた法律です。したがって、求人広告や仕事先で交わす契約書に、この法律で定める基準を下まわる労働条件が記載されていても、それは無効となり、労基法に定める基準に自動的に修正されます(第13条)。また、違反した使用者は、罰則規定により処罰されます(第117-120条)。
ここで言う“労働者”とは、職業の種類に関係なく、
☆事業に使用される者であり、
☆賃金を支払われる者であり、
☆具体的な契約の名称にかかわらず(つまり 正社員、非正社員を問わず)、
使用者との間に使用従属関係がある者とされています(第9条)。
また、日本で働く外国人にも適用されます。
※同居の親族のみを使用する事業場、家事使用人を除く。
公務員、船員については適用排除または一部制限あり |
◇ 労働基準法に定められていること ◇
- 原則(第1条) 労働基準法は、憲法第25条(生存権) および 第27条(労働権) に基づいて、労働条件の基準を定めています。
【憲法第25条】(生存権)
すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する |
【憲法第27条】(労働権)
すべての国民は勤労の権利を有し義務を負う。賃金、就業規則、休憩その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める |
したがって、労働条件は、労働者が人間らしい生活ができるものでなければなりません。
さらに、労働基準法で定める労働条件は最低基準ですから、使用者は、これを下まわる条件で労働者を働かせてはなりません。また、この基準を理由として労働条件を低下させてはなりませんし、その向上に努めなければなりません。
- 労働条件の決定(第2条) 労働条件は労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものだとしています。
また、労働者および使用者は、労働協約(→ ※「労働組合法」のページ参照)、就業規則(後述)、労働契約(後述)を遵守し、誠実にその義務を履行しなければなりません。
- 均等待遇および男女同一賃金の原則(第3条・第4条) 労働者の国籍、信条または社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはなりません。
また、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはなりません。
- 有期労働契約期間の上限(第14条) 有期労働契約期間(期間の定めのある労働契約)については、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、上限が原則3年と定められています。
また、高度の専門的な知識、技術または経験を有する者や、満60歳以上の者と有期労働契約を結ぶ場合の契約期間の上限は5年です。
1年を超える有期労働契約を結んだ労働者は、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、1年を経過すれば、いつでも退職することができます。
「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」
有期契約労働者との労働契約時や期間満了時のトラブルを防止するために、使用者が構ずるべき措置について、以下の基準が厚生労働省により定められています。
「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(要旨)
<平成15年厚生労働省告示第357号>
1. 契約締結時の明示事項等
- 使用者は、有期契約労働者に対して、契約の締結時にその契約の更新の有無を明示しなければなりません。
- 使用者が、有期労働契約を更新する場合があると明示したときは、労働者に対して、契約を更新する場合の判断の基準を明示しなければなりません。
- 使用者は、有期労働契約の締結後に(ⅰ)または(ⅱ)について変更する場合には、労働者に対して、速やかにその内容を明示しなければなりません。
2. 雇止めの予告
使用者は、契約締結時に、その契約を更新する旨明示していた有期労働契約(締結している労働者を1年を超えて継続して雇用している場合に限ります。)を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければなりません。
3. 雇止めの理由の明示
使用者は、雇止めの予告後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。
また、雇止めの後に労働者から請求された場合も同様です。
4. 契約期間についての配慮
使用者は、契約を1回以上更新し、1年を超えて継続して雇用している有期契約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければなりません。
(東京労働局「労働基準法のあらまし」より抜粋)
|
- 労働条件の明示(第15条) 労働者を採用する場合には、使用者は賃金、労働時間その他の労働条件を、書面で明示しなければなりません。
また、明示された労働条件が実際と違う場合、労働者は即座に労働契約を解除することができます。
「労働条件通知書」に明示しなければならない事項
- 労働契約の期間に関する事項
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 労働時間、始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金、賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
- 昇給に関する事項
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金、賞与、最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
|
このうち、1~6の事項は、すべての場合に必ず書面で明示する必要があります。
また、7~14の事項は、定め(慣行となっている場合も含む)がある場合に明示する必要があります
- 解雇(旧第18条他) 労働基準法では、使用者が労働者を解雇しようとする時、客観的合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権の濫用とみなされ、その解雇は無効とされてきました(旧第18条)。
しかし、この内容は、平成20年3月1日に施行された「労働契約法」に移行し、現在は削除されています。→ ※ 詳細は、「労働契約法」のページ参照。
解雇予告をされた労働者は、その解雇以外の事由によって退職した場合を除き、退職の日までに、解雇の理由についての証明を使用者に請求することができます(第22条)。
使用者は、解雇をめぐる労働者とのトラブルを防止するために、「労働条件通知書」ならびに「就業規則」の“退職に関する事項”欄に、「解雇の事由」を記載しなければなりません。
- 解雇の予告(第20条・第21条) 使用者が労働者を解雇しようとする時は、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
ただし、天災等やむを得ない事情で事業の継続が不可能になった場合や、労働者の責によって解雇する場合で、ともに所轄の労働基準監督署長の認定を受けた時は除外されます。
以下の労働者については、解雇予告等が除外されていますが、( )内の期間を超えて引き続き使用されている場合は、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。
・日々雇用の者(1ケ月)
・2ケ月以内の期間を定めて使用されている者(各々の契約期間)
・季節的業務に4ケ月以内の期間を定めて使用されている者(各々の 契約期間)
・試用期間中の者(14日)
- 退職時の証明(第22条) 労働者が、退職時に在職中の契約内容等について証明書の交付を請求した時は、使用者はすぐにこれを交付しなければなりません。
その際、労働者の請求しない事項を記入してはいけません。
- 賃金(第24条) 賃金は、(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定期日を定めて支払わなければなりません。
なお、労働者の同意を得れば、労働者の指定する本人の預貯金口座に振込支払することができます。
賃金から、税金や社会保険料等法令で定められているもの以外を控除する場合は、労働者の過半数で組織する労働組合か、労働者の過半数を代表する者との労使協定が必要です。
会社が労働者に対して損害賠償を求める場合でも、請求額を勝手に控除することは許されません。
- 休業手当(第26条) 会社側の都合(使用者の責に帰すべき事由)により労働者を休業させた場合、会社は休業させた日について、平均賃金の6割以上を、休業手当として労働者に支払わなければなりません。
- 労働時間(第32条) 労働時間 =(始業時刻~終業時刻の時間)- 休憩時間
労働時間制度は、以下の定型的労働時間制が基本となります。
「法定労働時間」:第35条(後述)に定められた1日8時間、1週40時間
「所定労働時間」:各企業が就業規則等で定めた勤務時間(休憩時間を除いた、始業時刻から終業時刻までの時間)
しかし、以下の「変形労働時間制」も認められています。
・「1ケ月単位の変形労働時間制」:
就業規則または労使協定により、1ケ月以内の一定の期間を平均し1週間の労働時間を40時間以下とした上で、特定の日や週について、1日および1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度
・「1年単位の変形労働時間制」:
労使協定により、1年以内の一定期間を平均し1週間の労働時間を40時間以下とした上で、特定の日や週について、1日および1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度
・「1週間単位の非定型的変形労働時間制」:
規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店において、労使協定により、1週間単位で毎日の労働時間を弾力的に定めることができる制度
・「フレックスタイム制」:
労使協定により、1ケ月以内の一定期間(清算期間)の総労働時間を定め、労働者が各自、その範囲で始業および終業の時間を自主的に決定して働く制度
また、業務によっては、「みなし労働時間制」「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」が認められています。
- 休憩(第34条) 使用者は、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、労働者に与えなければなりません。
休憩時間には、「労働時間の途中に与えること」「自由に利用させること」「一斉に与えること」という3原則があります。
このうち、「一斉に与える」という原則については、運送業、商店、病院、保育所、飲食店、遊戯場等特定の事業では、適用が除外されています。
その他の事業で適用を除外させるには、労使協定が必要です。
- 休日労働および時間外労働(第35~36条) 休日は、毎週少なくとも1日(原則暦日の午前0時~午後12時)与えなければなりません。
(変形休日制として、4週間を通じ4日以上の休日を与えることも認められています)
これを超えて労働させることを、法定休日労働といいます。
労働時間は、1日8時間、1週40時間と定められています。
(一部の特例措置対象事業場については、1週44時間が認められています)
これを超えて労働させることを、法定時間外労働といいます。
法定休日労働または法定時間外労働をさせる場合には、あらかじめ労使で書面による協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(第36条)。
この協定を36協定(さぶろくきょうてい)といいます。
また、派遣の場合、「就業条件明示書」(→ ※「労働者派遣法」のページ参照)に“時間外労働有り”“休日労働有り”の記載がなければ、拒否することができます。
- 割増賃金の支払(第37条) 使用者は、労働者に法定時間外労働をさせた場合や、午後10時~午前5時の間に労働させた場合(深夜労働)には、1時間当たり通常賃金の2割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
また、法定休日労働をさせた場合は、3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。
※なお、この場合基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金等は含まれません。
なお、時間外労働や深夜労働の賃金が未払いになっている場合、過去2年分までさかのぼって請求することができます(第115条)。
- 年次有給休暇(第39条・第136条) 労働者が6ケ月間継続勤務し、その全労働日の8割以上を出勤した場合、使用者はその労働者に10日間の年次有給休暇を与えなければなりません。
これは、アルバイト、パートタイマー、嘱託等の労働者であっても同様です。
その後は勤務年数に応じて、下表の日数の年次有給休暇を与えなければなりません。
[ 週の所定労働日が5日以上、または30時間以上の労働者の年次有給休暇 ]
勤続年数 |
6ヶ月 |
1年
6ヶ月 |
2年
6ヶ月 |
3年
6ヶ月 |
4年
6ヶ月 |
5年
6ヶ月 |
6年
6ヶ月 |
付与日数 |
10日 |
11日 |
12日 |
13日 |
14日 |
18日 |
20日 |
[ 週の所定労働日が30時間未満の労働者の年次有給休暇 ]
週所定
労働日数 |
1年間の所定
労働日数 |
勤続年数 |
6ヶ月 |
1年
6ヶ月 |
2年
6ヶ月 |
3年
6ヶ月 |
4年
6ヶ月 |
5年
6ヶ月 |
6年
6ヶ月 |
4日 |
169~216日 |
7日 |
8日 |
9日 |
10日 |
12日 |
13日 |
15日 |
3日 |
121~168日 |
5日 |
6日 |
6日 |
8日 |
9日 |
10日 |
11日 |
2日 |
73~120日 |
3日 |
4日 |
4日 |
5日 |
6日 |
6日 |
7日 |
1日 |
48~72日 |
1日 |
2日 |
2日 |
2日 |
3日 |
3日 |
3日 |
有給休暇は、労働者が指定した時季に与えなければなりません。ただし、その時季が事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に変更してこれを与えることができます。
有給休暇の期間については、(1)平均賃金、(2)所定労働時間を働いた場合に支払われる通常の賃金、(3)健康保険法に定める標準報酬日額(労使協定が必要)に相当する金額のいずれかの賃金を、労働者に支払わなければなりません。
使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賞与、皆勤手当等賃金の減額など、不利益な取扱いをしてはなりません。
- 産前産後(第65条) 6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性が休業を請求した場合には、就業させてはなりません。
また、産後8週間を経過していない女性を就業させてはなりません。(女性社員から請求がなくても、休業させなければなりません。)
ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合は、医師が支障ないと認めた場合には、業務に就業させても構いません。
- 妊産婦の労働時間制限等(第66条) 妊産婦(妊娠中の女性および産後1年を経過しない女性)が請求した場合には、時間外・休日・深夜労働をさせてはなりませんし、変形労働時間制で働かせることもできません。
- 育児時間(第67条) 生後満1年未満の子供を育てる女性から請求があった場合には、休憩時間のほかに、1日2回、それぞれ少なくとも30分の育児時間を与えなければなりません。
- 生理休暇(第68条) 生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求した時は、就業させてはなりません。
- 就業規則(第89条・第90条) 常時10人以上の労働者を使用する事業所では、必ず就業規則を作成しなければなりません。
また、労働者が10人未満であっても、就業規則を作成することが望まれます。
「就業規則」に掲載しなければならない事項 |
1 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項 |
2 賃金(臨時の賃金を除く。以下この項において同じ)の決定、計算及び支 払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 |
3 退職に関する事項(解雇の事由を含む) |
4 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項 |
5 臨時の賃金等(退職手当を除く)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項 |
6 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項 |
7 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
8 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
9 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
10 彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項 |
11 以上のほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項 |
このうち、1~3の事項は、すべての場合に必ず記載しなければなりません(絶対的必要記載事項)。また、4~11の事項は、定めがある場合には必ず記載しなければなりません(相対的必要記載事項)。
常時10人以上の労働者を使用する事業所において、就業規則を作成または変更した場合には、労働者の代表の意見を記し、その人の署名または記名押印のある書面(意見書)を添付して、管轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。
また、使用者は就業規則を労働者に周知し、掲示、書面で交付、磁気テープや磁気ディスクにより、労働者がいつでも内容を確認できる状態にしておかなければなりません(第106条)。